- 太田 真之/Masayuki Ota
- ボーダレス・ジャパン JOGGO株式会社 代表取締役社長
- みなさん、こんにちは。JOGGO株式会社代表の太田と申します。本日はさまざまな国の方と我々の事業や考え方、想いを共有する機会をいただき、誠にありがとうございます。自己紹介から事業紹介というかたちでお話しさせていただきます。
- 私は、これまで世界中15か国ほど訪れ、きれいな自然もあれば、人の手によって汚されてしまった自然も目にしてきました。今、バングラデシュと日本の障害者雇用の活動をしていますが、社会で取り残された人や、区別、差別が実際あるところも見てきました。私自身が、そういう方々や環境問題の活動というものに以前から興味がありました。
- これまで人との出会いの中で、タイの孤児支援の活動や海洋事業ボランティアなどの活動をしてきました。その中で日本でのボランティア活動の難しさを体感しました。仕事のかたわら、活動資金も集まらないボランティアの活動を行っていくと、思いがあってもなかなかインパクト(影響・手ごたえ)が出ないという経験をしてきました。
- 仕事自体はグローバルな小売にいましたが、サスティナビリティをうたっていても、大量生産、大量廃棄が根幹となり、どうしても自分が貢献している気持にはなれませんでした。そのような中、2019年10月にボーダレス・ジャパンのJOGGO株式会社の代表を外部採用するという機会があり、就任して、現在、2年ほど事業を担っています。
- ボーダレス・ジャパンは、ソーシャルビジネスしかやらないグループです。世界で16カ国、約42個のソーシャルビジネスを展開中です。ソーシャルビジネスとは、効率性を追求することで、取り残された人やもの、場所や社会に対して非効率性をも含めて、ビジネスを展開することをボーダレス・グループは、『ソーシャルビジネス』と呼びます。私のシンプルな解釈としては、社会貢献と株式会社としての黒字化運営、この2つを同時に両立させることが大事だと思っております。
- 自分たちでしっかりとマネタイズ(事業の収益化)して、自立できることが大きなポイントです。もうひとつ特徴としては株式公開をしていなので、投資家の意図などの影響を受けず、ソーシャルビジネスに徹底できるところです。ボーダレス・ジャパンの特徴としては、「恩送り」というものがあり、年齢は関係なく、社長会で全員が賛成した投資を受けて事業をします。
- 「JOGGO」はベンガル語で、「あなたにぴったり」という意味です。なぜJOGGOがバングラデシュの事業になったのか。それはファルクさんという人がいて、インターンで日本に勉強に来て、ボーダレス・ジャパンで働いていました。修行を積んだ後、ファルクさんとしては母国をなんとかしたいと。仕事の機会に恵まれない方がいて、明日、明後日食べるものがない人がいて、そういう人を何とかしたいと。そんなファルクさんの思いから、ボーダレス・ジャパンと一緒にJOGGOを作りました。私が来てから、JOGGOをリブランドし、「感動で繋がりを」をビジョンに、国境や宗教、障害を超えたすべての人がともに喜びを分かち合い、「心」でつながる社会を目指しています。
- JOGGOの経営理念をシンプルにお伝えすると、最終的には、よりよい地球を次世代に繋げたいと思ってやっています。そして果たす役割は、貧困が背景で、就業する選択肢がない人、経済的自立が難しい状況、障害者、生まれた立地や環境によって機会がない人に対して、一流の革職人を通して自分自身の仕事に「誇り」をもって生きていけることをミッション(使命)にしています。
- またソーシャルインパクトに重きをおき、人として成長し続けることをバリュー(価値)としております。そしてプロフェッショナルであることが、マネタイズ(事業の収益化)で大事なことです。
- では「JOGGO」と「UNROOF」の2つの事業について詳しく紹介いたします。設立は2014年の3月です。JOGGOは、最初はボーダレス・グループの中の1つの企業として作られました。バングラデシュの工場で自社制作したものを、日本国内で販売しています。UNROOFはもともと独立した会社でした。なかなかマネタイズが苦しく、残れる方向としてJOGGO本体が吸収して残す形にしました。
- まず、JOGGOの説明をします。ファルクさんがいたので、バングラデシュとなりましたが、バングラディッシュはアジアの中でも最貧国の1つといわれています。日本よりも人口が多く1億6,000万人で、国土は日本の半分です。小学校から通えない人が多く、働きたくても働けない、読み書きやノウハウがない人を、なんとかしたいという気持ちからこの事業が始まっています。
- 私たちがとった手法は、自社工場を作り、自社で雇用を生み出すもので、対象者は適切な教育が受けられなかった人、シングルマザー、障害を持っている方を優先しています。最初は縫製職人の中で40年手伝ってくださっている職人さんたちがいて、彼らから技術の継承をする。最初は手伝ってくれる職人さんが多かったのですが、だんだん自分たちが雇用した人も増えていきました。
- こちらが2009年11月の写真です(スライド9)。シングルマザーが多いのは、父親や夫の蒸発などで絶対貧困度が高いなど、いろいろな事情があります。真ん中の青いシャツの男の子ですが、木こりのバイトをしているとき、木が倒れてきてしまい、体の半身がままならなくなり、目もあまり見えない状況です。
- 工場スタッフなどの状況です(スライド10)。イスラム教徒の国なので、女性はかぶりもの(ヒジャブ)をしています。自分の子どもと仕事中でも会えるように、2階に託児所を作っています。ビジネスだけではなかなか精神的なつながりがもてないので、バングラデシュの国技であるクリケット大会をやりました。精神的なつながりが、JOGGOの「感動で繋がりを」に集約されています。
- ここからがビジネス、受注や雇用をどう生み出すかという話です。バングラデシュには、イスラム教のお祭りがあります。この祭りは、牛を感謝として捧げながら、自分たちで処理して食べます。牛を買えない人には、地域のお金がある方が振る舞います。1週間で1億6,000万人が一斉に牛を食べるので、大量の革が生まれます。捨てるのは勿体ないので、副産物を利用するというのがJOGGOです。
- バングラデシュの国産のものを使うという誇りがあり、私たちも一緒に使っています。革をなめす工場をタンナーさんと言います。14色のオリジナル色を使った、JOGGOだけの革を開発しました。受注方法はお客さんが自分で選ぶ、セミオーダーメイドサービスを取り入れました。ターゲットは若い女性です。彼氏にもっと私に振り向いてということで、自分で選んだカスタマイズ商品に名前の刻印ができます。世界に1つの革小物が作れることを売りにして、EC(イーコマース)販売をしています。
- バングラデシュの国産のものを使うという誇りがあり、私たちも一緒に使っています。革をなめす工場をタンナーと言います。14色のオリジナル色を使った、JOGGOだけの革を開発しました。受注方法はお客さんが自分で選ぶ、セミオーダーメイドサービスを取り入れました。ターゲットは若い女性です。彼氏にもっと私に振り向いてということで、自分で選んだカスタマイズ商品に名前の刻印ができます。世界に1つの革小物が作れることを売りにして、EC(イーコマース)販売をしています。
- こだわりは縫製レベルが良いということです。製品が良くないと、受注が生まれていかないので、雇用に結び付けるときにも重要なポイントです。そこについては、先ほどお伝えした技術指導者が入ってくれています。
- 次はUNROOFの事業説明です。創設者はその方自身が車いす、身体の障害を持っています。UNROOFができた背景は、社会の中の意識、それは「仕事ができない」とか、「助けてあげないと」ということに対し、障害者雇用ではなく一般雇用を行って、多様性社会の実現を意識したものだと言えます。コンセプトは、「障害の有無に関わらず誰もが輝ける社会を作る」です。これに共感してくれた人が一緒に働いてくれています。
- UNROOFで大事なことは、障害者手帳を持っていたとしても、もの作りが好きということと、UNROOFを通して自分のやりたいことをやってもらうということ。そういう方々を対象に雇用しています。現時点では10名ほど職人さんとして雇用しています。
- UNROOFのユニークな点は、ADHD(注意欠陥・多動性障害)やその複合型、うつなど、いろいろな方がいます。遅刻などは自由で休みも自由。みんなが真面目に働かないと成り立たないのですが、幸い、UNROOFの職人は真面目で、自由であっても、生産が間に合わないということはありません。逆に天候不順とか台風などで気圧が下がると、どうしても朝起きられないのは、その人の特長としてとらえて実現しています。課題となる仕組み作りとしては、「ルールとマナー」を一緒に作っていくことです。
- ここからサスティナビリティの説明をします。JOGGO株式会社、UNROOFも含めた話となります。基本的には在庫を持ちません。これにはいろいろなメリットがあります。ストックがあれば売れるという考え方もありますが、それを現段階でやると、リソースにも限りがある。それはサスティナビリティに合わないとして、在庫は持たないようにしています。在庫を持たないと、在庫のマネジメントをする必要もないし、廃棄、ロスもありません。チャレンジなことは、1つ1つ手作りしているので、急いでも15日間などの納品期間で依頼を受けています。なので、明日欲しい人には選択肢がなくなってしまう。しかし、ここにはこだわりたいです。
- 2つめは革について副産物を利用しています。ビーガンの方は革もだめと言いますが。弊社としては、革製品を作るために牛を狩るのではなく、副産物を利用するというところがポイントです。革は端切れがでるので、そこが課題です。端切れを使った商品も出していますが、それでも端切れはなくならないので、そこをクリアしていきたいと思っています。会社で使う電力は「ハチドリ電力」というボーダレス・ジャパンが運営している、電力会社の電力や自然電力の電力会社など、オフィスによって違いますが、そういった再生可能エネルギーを使っています。
- 日本においてはCO2の排出量で最多は火力発電で、40%を占めています。CO2削減には他の手法をどう選ぶかという部分で、我々は再生可能エネルギーを使用しています。別の角度として、社会性のサスティナビリティです。ボーダレスがなぜソーシャルビジネスを選択しているかというと、NGOやNPOは支援が途切れると、その先がなくなってしまいます。我々が自立を目指すときに、どうしてもビジネスでマネタイズをしていく必要があります。雇用を生み出すところはたくさんあるが、環境が劣悪だと、雇用を創出しても意味がないと考えています。環境のセットアップという面も1つ1つやっています。
- 写真は(スライド24)、アフタースクールで、その隣には託児所もあります。食事は食べずに、家族に持ち帰るという女性も多いため、食堂も作りました。日に2回、バナナなどの配布も行っています。
- バングラデシュ、そしてJOGGOとUNROOFですが、我々はソーシャルインパクト、これを雇用においています。先月100人の雇用を生み出しています。姉妹会社、OEM会社などありますが、全部で700人くらいいます。そのくらいの雇用を生み出しています。UNROOFは、現時点で10名の方が働いています。ということで、駆け足のところもありましたが、弊社、JOGGOの事業紹介です。ありがとうございました。
- 司会/太田様、ご講演をありがとうございました。それではこれより質疑応答を行います。
- 質問A/バングラデシュで牛の革を使うというアイデアは、どなたの発案ですか。
- 太田/みんなで考えました。ファルクさんが一人で出したのではなく、当時の日本人も含め一緒に考えました。
- 質問B/バングラデシュで生産した財布は、バングラデシュ国内で販売しているのですか。
- 太田/JOGGOのブランドは、日本でしか販売しておりません。バングラデシュに、ボーダレス・グループの革を扱うOEMという会社があります。そこでは日本以外にも商品を出荷しています。
- 質問C/多くの社会課題にアプローチされているように感じましたが、課題の抽出や解決方向性はどのように選定されているのでしょうか。
- 太田/JOGGOは、あくまでもバングラデシュの貧困問題解決です。そこが、ぶれない大きな軸となります。その中で、いかにサステナブルな運営できるかに重きをおいているので、あくまでバングラデシュの課題ありきで、できることは全部やっていこうという形です。
- 質問D/バングラデシュで、日本人が革製品の工場を作り、現地で雇用を生み出し、日本でも販売している「マザーハウス」というのがありますが、太田さんたちと影響を与え合うことがあるのでしょうか。
- 太田/ボーダレス・ジャパンの代表とマザーハウスの代表は知り合いなので、活動内容は分かりませんが、絡みはあります。弊社で働いている10人以上の人が、もともとマザーハウスで職人をやっていたがJOGGOに来られました。直接的にはそれほど絡んでいませんが方向性は類似しています。
- 質問E/大変すばらしい事業のご説明ありがとうございます。私の長男は精神障害がありますが、職場に出ることが困難な状態です。UNROOFやバングラでの事業所では、障害者同士のトラブル等にはどう対応されていますか。
- 太田/UNROOFでは精神保健福祉士さんに来ていただきましたが、現段階では卒業していて、今はいない状態です。トラブルは実際にいろいろ起きていました。うまくいった1つの手法については、改めてビジョンを統一化することと、同時に「ルールとマナー」を一緒に作成することでした。そうするとみんなクリアになる。今はチャットワークというシステムを使い、みんながコメントを見られる状態にセットアップをしました。
- 質問F/遅刻や欠席OKという社風には驚きました。この規則は、創設以来のものなのでしょうか、それとも、社員の特性により変化したものなのでしょうか。
- 太田/この件は、創設時代からその方向で進んでいました。改めて言語化したのは私ですが、それほど大きく変わっていないと思います。規則が社員の特性に合わせて変化していく、それは基本的に変化するものだと思っています。発達障害と言っても一括りにはできないので、あくまでその人の特徴があるので、それに合わせた形をとっています。
- 質問G/労働者間で、たくさん働いている人と、そうでない人との間で軋轢(あつれき)は起こっていませんか。
- 太田/実際に、これは起きていて大変でした。JOGGOの超特急便、8日間で届くサービスですが、バングラデシュからではどうしても間に合わないのでUNROOFで作っています。正社員じゃないのに一生懸命作っていて、正社員はあまり作っていない。そうなったときに、全員が生産できるようにしなければいけない。工場管理をする者がシステム化して、誰が何を作っているかを「見える化」しました。仕事が均等にできるような振り分けをしています。
- 司会/ありがとうございました。時間となりましたので基調講演を終了致します。
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